軽くて強いカーボンファイバーを身近な素材へ

カーボンファイバーは高分子前駆体かグラフェンなどのカーボン材料から作られた、92%以上の炭素含有率を持つファイバー状もの。[1]

というのが最近の定義だそうだ。 非常に高強度の割に密度が低く、とても軽いという性質を持っている。 繊維方向の引っ張り強度はべらぼうに強く、チャンピオンデータだとほぼ全ての材料を見回しても5本の指に入る。
変形耐性というか弾性もとても高いのだが、素材や製法によって結構コントロールができたりもする。 酸化されやすのが難点だが、それ以外には化学的にとても安定な繊維と言える。

上記のように物理的にも化学的にも高強度と言えるカーボンファイバーである。 カーボンファイバーの原料はポリアクリロニトリル(PAN)がメインだ。 実はこのポリアクリロニトリルからのカーボンファイバーを開発したのは日本人だったりする。 そのこともあってか、日系会社のカーボンファイバー事業はかなり強いようだ。 もう一つの現実的な素材は、ピッチと呼ばれる原油残渣である。 今wikipediaを見たらこちらも実は日本人開発であり、やはり日系企業が頑張っているようだ[2]。 カーボンファイバーが実際に何使われているかというと、航空機素材、スペースシャトル素材や風力発電機の素材などである。 最近(ちょっと前か・・)だとボーイング787の機体の多くのカーボン繊維を混ぜて軽量化に成功したというニュースは耳に新しい。

作り方は原料から作った繊維を炭化するのだが、前処理・炭化・グラファイト化などの工程がありそんなに単純ではない。 また素材によっても製法はだいぶ異なっている。 炭化の詳細はこの投稿のトピックではないので省略するが、それぞれの素材から高性能ファイバーを作るのに多大な努力がなされてきたのだ。

さてPAN系にしてもピッチ系にしてもだが前述のように材料機能はとても高く全く問題がない。 さらなる高機能性を求めて研究を行っている研究者・企業がもちろんいるんだろうけど。
一つ問題をあげるとするならば価格だろう。 ちょっと最新のデータかはわからないが、PAN系のコストは約2000円/kgほど。 ピッチ系はさらに高額。 用途が用途なので高額なのは大した問題にはなっていないのだろうが、ちょっと裾野を広げていこうと思うとこのコストがネックになる。 価格さえ落ち着いてくれば、車はもちろんのことレジャー・スポーツ用品などにもガスガスと使うことができるだろう。

また基本的に石油原料なので、地球温暖化・カーボンニュートラル・持続性的なことを言い出した場合には問題がある・・・なんていうのは生物材料研究者の枕詞なのだが、実際に持続的に育成・リサイクルができる生物材料からカーボンファイバーが作れるならばそれは良いことではないだろうか。

ちなみに世界で最初のカーボン繊維は実は植物由来。 Pan系が出てくる少し前、アメリカのナショナルカーボン社がレーヨンと呼ばれる再生セルロース繊維からカーボンファイバーの作製に成功している。 しかしセルロースから作ったカーボンファイバーはイマイチ性能がよろしくない。 加えて酸素含有量が高いこともあり、カーボンファイバーの収率はかなり低いものであった。

性能が上がらないところには、素材的な限界があると言える。 しかし航空機に使うわけでもないのなら、低グレードのカーボンファイバーでもそれはそれで需要があるものなのだ。 この低グレードのカーボンファイバーをいかに生物材料から安く作るかというところに、研究ひいてはビジネスチャンスがあるのではないだろうか。

 

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参考資料

[1] Carbon Fibers: Precursor Systems, Processing, Structure, and Properties
Erik Frank et. al. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 5262 – 5298

[2] 「炭素繊維」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org)。2017年3月1日 (水) 02:40更新版