最近ではどこの研究機関でも結構良いX線解析装置を一つ、二つ持っているものだろう。 広角散乱では精度の高いRIGAKUかBrukerの結構高級な装置をどこの機関にいっても見かけるし、結構立派なXPSや小角散乱装置などを自前で揃えている研究機関も多くなって来ている。
最近のX線関係の装置は使いやすく調整されているので、ちょっとしたトレーニングを受ければすぐに使えるようになる。 安全装置もしっかりついているので、かなりがんばらないとX線に晒されるなんていうこともないだろう。
解析手法も多岐にわたって確立されている。 自分がどのような情報が知りたいかを理解していれば、そのためのX線装置と解析法を探すのはそう難しくはない。 よっぽど特殊なサンプルを使う研究者や、新しい解析手法の開発をしてる装置屋さんなどになると話しは別だが。
X線を使う理由
なぜX線を使うかを一言にすると、見えないものが見るためだ。 光学顕微鏡での限界は約200ナノメートルといわれており、これ以下のサイズのものを見たかったら何かしら可視光以外のものを使う必要が出てくる。 X線はそんなツールの一つといえる。
他の電子顕微鏡などのツールに比べた良い点は、比較的前処理なしでサンプルそのままの構造を見ることができること。 またサンプルを割と非破壊で測定することができること。 浸透力もそれなりに強いので内部構造を見るのにも適している。 一方で装置や手法によっては表面構造観察に優れていること。 あとはX線装置次第でサンプル環境が割と自由に調整でき、温度・湿度やサンプルへの張力などの条件が変えやすいことなど。 挙げだすときりがなくメリットがある。
X線と物体の相互作用
X線の物質による散乱
さてX線が物体(の電子)と出会った時いくつかの異なる相互作用が起こりうる。 大雑把に分けると電子によって散乱されるX線と、光電効果などで電子をふっとばす場合だ。 もっともよく使われるのが弾性散乱(トムソン散乱)であり、構造由来の回折やら散乱やらを発生させる。 弾性散乱ではX線の波長ひいてはエネルギーは散乱前後で同じである。
弾性散乱があるということは非弾性性散乱(コンプトン散乱)もある。 こちらの散乱も原子の動的挙動を見る?などの使い道はあり、特に中性子分野では良く使われている。 しかし私は全く詳しくないし、弾性散乱を利用したい際には単なるバックグラウンドでしかない。
ちょっとややっこしいのが干渉性散乱と非干渉性散乱という区分けもある。 こちらの区分では散乱前後のphase・位相が同じかどうかということが重要。 ちょっとまだ噛み砕けていないのけど、回折や小角散乱の場合は干渉性弾性散乱になるのであまり区別して考える必要はないのかな。 しかし弾性と干渉性の有無によって4種類の散乱があることは覚えておいた方がよさそう。 もう少し詳しく書いてあるテキストがみつかったらアップデートするかも。
何はともあれX線回折装置やX線小角散乱装置が最もよく使われる散乱装置であろう。
光電効果を介したX線と物体の相互作用
これまではX線が電子によって散乱される現象を見て来たわけだが、X線は電子とより直接的な相互作用もする。 すなわちX線が電子に出会って電子を核外にすっ飛ばしたり、その結果として外殻の電子を内殻の電子軌道上に移動させたりするのだ。
核外に飛ばされた電子のエネルギーを補足することで元素組成や化学結合を見るのがXPSと呼ばれる装置である。 さて飛ばされる内殻電子があれば空孔ができる、そこに外殻から電子が落ちてくると余剰のエネルギーが蛍光X線として放出される(これは励起源が電子線だったら特性X線、EDX)。 蛍光X線から元素同定を行うのがXRFと呼ばれる装置である。
最後にオージェ電子というものがある。 これはX線なり電子の殻移動なりによって得られた余剰のエネルギーが外殻の電子の放出という形で排出される。 AESは電子線で励起されたオージェ電子のエネルギーを捕捉する元素分析装置である。 X線と物体の反応でもオージェ電子は出るが、AES装置自体は電子線由来なのでここで紹介するのは少しトピック違いかもしれないが。
これらは全て元素分析装置であるが、試料の素材・目的の元素分析サイズ・深さなどで使い分けていくことになる。
個別の分析手法や原理については、機会があればまた別の投稿でまとめることにする。
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