論文のpeer reviewのシステムってのは後どのくらい保つのかなー?

 

最近受け取った中では比較的まともな論文を査読し、ちょっと悩んだ末に結局リジェクトを付けた。アブストが面白そうだったから期待してたんだけど、内容薄すぎだしサンプルのセットもイマイチ……それでも最近査読した論文の中ではまともな方だったかなー、などと思いつつこの投稿を書いている。

いや、高齢ポスドクなのでまあそれなりの数の論文の査読をしてきたんだけどさ、最近このpeer-reviewのシステムって後どのくらい持つのかなー、って疑問を持ち始めていたりするのだ。

色々理由はあるけれど、一つずつ書いていこうと思う。

単純に大変なボランティアなこと

ご存じのようにpeer-reviewはボランティア。たとえ論文読むのに数日かかろうとも、検証するのがめちゃくちゃ大変な論文だったとしても、そこにペイは発生しない。読む価値のないデタラメ論文を投稿されていたとしても、まあ一度は読む必要はある。

科学なんぞ元々貴族の戯れであり、ペイなんか考える人がやっちゃいけないのだ……ってのは事実かもしれないけれど、私のような特に研究が好きなわけでもない職業研究者にはちょっとそのノブレスオブリージュの心は持てない。

もちろんpeer-reviewにかかる時間は職場の上司(スーパーバイザー)とかは、職務時間と考えてくれることがほとんど。日本はどうかしらんけど、たぶん大概はパーソナルディベロップメントの時間として考えてもらえるんとちゃうかな?

昔はなるべくパーソナルタイムに読もう、とかしてたけど、今ではほとんど仕事時間に突っ込んでいる。じゃなきゃとてもやってられないし。

まあそれはともかくとして、論文査読大変なんだよねえ……精神的にも時間的にも。適当な英語で書かれた適当なデータを、それなりに好意的に解釈しつつ、それでも穏便な表現でやっぱりクソって言わなきゃいけないっていう。

なんもわかんねー、ってくらいの論文が一番ラク。そんな論文あんまりないけど、なんもわかんねー場合は大概クオリティーが高いし、なんだかんだで勉強になる。もちろんクソすぎて意味わかんないって場合もあるけど、そういうのは目に見えるほころびもあるものだよね。

いやー、何にしても、普通にこんなんってペイが発生するべき仕事だよね。ってことで、そのうちボランタリーなpeer-reviewを引き受けてくれる研究者がちょっとずつ少なくなり、なくなっていくんとちゃうかなって思ってたりするんだけど他の研究者の人はどう思ってるのかな?

論文の数がめちゃくちゃ増えてること

昔って論文出すのって大変だったじゃないですか? 絵作るのも大変だし、英語校正も大変だし、刷って送ってレビューしてもらっても大変だし。

今はなんだろう。パソコン1台あれば全部できちゃう……そうXXXならね。ってことで、今は論文書いて投稿するの簡単すぎんだよね。そりゃ論文の数はぼろぼろ増えるさ、別に研究者の数が減ってたって、論文の出し先も大量にあるんだからさ。

んでしわ寄せがクルのがレビューシステムだよね。みんな論文書かないと評価されないから、よく検証されてない論文がどんどんと投稿されるわけで。

もちろん古豪のハイインパクトジャーナルは、エディターがだいたい最初にリジェクトしてくれるよ?まああの方たちのお仕事もまたえらく大変なんだろうなあと思う、実際にエディターリジェクトってるのは本人じゃないかもしれんけどさ。

でもそんな古豪ジャーナルからはそんなに若手にレビュー回ってこないし、どうでもいいのよ。2回かな……どんな経緯かはしらんけど私に回ってきたのは。

新興のジャーナルやら、IF低めのジャーナルやらから回ってくる論文がまあ曲者だったりするのさ。ほぼ素通しでレビューまでは回すジャーナルって結構あるのさ。最近だとIF10くらいあってもね。

結果として嬉しくない方の意味で大変な論文査読が、私みたいなクソ研究者にガンガン回ってきたりしてるんだろうねえ。

投稿が容易になってクオリティの低い論文が増えてること

前章の続きだけど……まあ、これが一番だよねー。

正直まともに研究してれば、よっぽど同分野の人じゃなければ、何言ってるかわかんねーけど、データ採取にも解析にもミスはないしあってるっぽい。まあ幾つかおかしいところはあるから指摘しとくか……こんくらいの理解でマイナーレビジョンになると思うんだよね。著者グループは基本的にそのフィールドをかなり良く知ってるわけでさ。

個人的にはデータを正確にとって、それをパラメタライズするところまで正確にやるってのがとても重要なことだと思っていて、その先のディスカッションは好きにやればいいさっていう主義。そこが多少おかしかったり言い過ぎたりとかってのはご愛嬌だと思うのだよね。

よっぽどフィールドがかちあった場合は色々とややこしくなるけど、まあそれはそういうものだから良いのだ。その時はすきなだけレビューアと著者で激論を交わせば良いのだよ。そういう大変さならレビューアも受けて立つものだし、そんな著者のレビューするならハッピーだよ。

だけど最近の現実としては、そのフィールドの人間じゃなくてもその前の段階で全くおかしいってわかる論文がやけに回ってくるのよ。データのとり方がおかしかったり、著者が解析のプロセスや意味を理解してなかったり。

こういうレビューはとても疲れる。何も自分に残らないし、むしろ思考に悪影響があるくらいなもの。

それで更に問題が何かって言うとさ、私レベルのクソな研究者がリジェクトって言ってる論文に「良い論文だ、マイナーレビジョン」とか言ってしまうレビューアも結構いること。

ほんとにそう思ってるのならいいんだけどさ……コメント見るとわかるけど、絶対まともに読んでないんだよなあ、ああいう人たち。パット見で真面目に読みたくない、って思ったのはわかるけどさあ。私も思ってたし。

でも、こういうので私リジェクト、他1・マイナー、他1・メジャーとかだと最終的にアクセプトに回るんだよね。だって何回も回ってくるレビジョンのレビューをリジェクトし続けるほどやる気ねーもん。

2回もエディターに「こんな直してきたんだけどどう?」って言われたら、気持ちリジェクトだけど、もうアクセプトでいいよってなるよ。ネイチャー・サイエンスのレビューしてんじゃないんだからさ。

……ってわけで、まあ既にpeer-review崩壊しはじめてるよね。

基本引き受ける前にアブストしか見れないってのも問題なんだよね。1回受けちゃうとそこから断るってのもなんだか微妙だしさ。論文みてから3日くらい断り期間もうけてくれるなら、たぶん5割の査読論文返上すると思う。まあそれはそれで査読システム崩壊するかもだけどさ。

あー、一応言っておくけど日本の研究グループはこのあたりかなりまとも、たぶん。そんなに日本人グループの論文レビューしたわけじゃないけど、幾つか読んだのはかなりしっかりしてたし普通にアクセプトされた、まあ阪大とか京大からだったからそりゃそうかって気もするが。でもどんな大学でも結局トップが1回は見てるんだから、ある程度のクオリティは担保されるはずでしょ?

新規性薄すぎてリジェクトとかディスカッションが妙に薄いとか……そんな特徴はあったりするけど、日本人グループは論文を読ませる作品としてはしっかり仕上げてくるよ。現時点では科学世界にとって良い存在だとは思うけど、だから全体の論文数やらインパクトのある論文が伸びてなかったりしちゃうのかなー、とは思ったりもするな。

いや、だって新規性のある内容ばっか飛びついて、レビューアにプルーフリーディングさせてたら、そりゃ論文数もインパクトも伸びるさ。1雑誌目で数人にレビューさせて、そのコメント利用して適当に手直しして2雑誌目へ。まあ、これで無料で労力少なく論文の質を上げられるんだよ。死ぬのは不幸なレビューアだけで、だから査読システムが崩壊するんだけどさ。

本当に低レベルな論文ほど若手にくること

これは私のやってきた印象ってだけだから間違ってる可能性も大。

まあ、結構な数の低レベルな論文見てきたわけですけど、結構真面目に見て真面目なコメントつけるわけですよ。若手なので。まあ時間かかるし大変なんだけど。

んで、最初からよくできてる論文が回ってこないのは、そういうのは大概大御所様に回ってるのかなと。

いや、もちろんそれは当然というか、理のあることだとは思うんだけど、でもこれももうちょっとバランス取った方が良いと思ってるんだよな。

大御所ならクソ論文回されても「こんな論文読む時間ない、リジェクト」で終わりにできるからさ。いや、理想的にはそういう反応も良くないのはわかるけど、そのレベルの論文ってのも結構あるものなのだよ。

昔はこの論文はジャーナルにあってない、みたいなコメントでのリジェクトが大嫌いだったけど、今ならなんとなくその理由はわかる。無理ぽっていう論文なんて一律でジャーナルにあってないくらいの理由つけてリジェクトしたいもん。

こういう論文が若手に回ってくるデメリットは色々あって、例えば若手の研究者が「なんだ論文投稿このレベルでいいのかよ……」って刷り込まれること。真面目にプルーフかけるのがアホらしくなるよね。逆に良い論文を読んだあとは、このくらい頑張らないとあかんなーってなるからね。

もちろん、それなりのレベルの論文を古豪の雑誌に投稿しても似たようなことはおこる。そんな雑誌のお抱えでレビューしてる人たちって結構凄研究者たちで、そのレベルからすれば私の論文とかも同レベルでクソなんだろうし、実際に直接”bullshit”のお言葉を頂いたこともある。いや、今思い出してもあのレビューは強烈だったな。研究者って割とイカれてるレベルでブチ切れる人いるよね。

ともかくとして、だからある程度のヒエラルキーがあること事態はしょうがないと思うのだけど、それにしても本当に拾い上げようのない論文を査読に回さざるを得ないってシステムな現状、金でも払わなきゃこのシステム持たなくなるんじゃなかろうかなあ、と思ってたりするのですよ。20−30年くらいのスパンで。

まとめ

このあたりのもろもろを考えると、まあpeer-reviewシステムはそのうち崩壊するんじゃないかなあと思っていたりする。個人的には崩壊すべきって思ってたりもするし、この美しいボランティア世界が残れるような科学コミュニティだったら良いなあとも思う……けど、実際には水は下方に流れるんとちゃうかなー。

ま、科学職業にバイバイすること決定した今だからこんなこと気楽に書けるんだけど、バイバイ決めた今だからこそ、将来的にこのフィールドがよくなっていると良いなあなんて思ってたりもするのです。自分に関係ない事の方が案外応援できるものだよね。

今苦労してるかもしれない同年代の研究者の皆さんが良い世界を作っていってくれたらと、リタイア組が応援してたりしますよー、っていう投稿でした。

関連記事

1. python・科学記事のまとめ

D

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください